東京地方裁判所 平成7年(特わ)3163号 判決
裁判所書記官
釜萢範人
本店所在地
東京都江戸川区松島一丁目二四番一五号
株式会社スピーディ
(右代表者代表取締役 浦澤達夫)
本籍
東京都墨田区本所二丁目五番地の三
住居
東京都江戸川区中央四丁目四番二号
会社役員
浦澤達夫
昭和六年一〇月一八日生
右の者らに対する各法人税法違反事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人山下英幸(主任)、三木敬裕各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社スピーディを罰金二五〇〇万円に、被告人浦澤達夫を懲役一〇月に処する。
被告人浦澤達夫に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社スピーディ(以下「被告会社」という)は、東京都江戸川区松島一丁目二四番一五号に本店を置き、自動車整備機械、工具及び設備の販売等(平成六年七月二六日以前は一般塗料の販売等)を目的とする資本金八〇〇〇万円(平成七年一〇月一八日以前は五〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人浦澤達夫(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、仕入高を水増し計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成三年六月一日から平成四年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億七三五四万五九四〇円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年七月三一日、東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号所轄江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億九八六五万六二二八円で、これに対する法人税額が七二二九万四八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六三五号の1)を提出し、そのまま法定期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億三七万八二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二八〇八万三四〇〇円を免れ
第二 平成四年六月一日から平成五年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億五一二八万四二七四円(別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年八月二日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億四六四七万一一〇九円で、これに対する法人税額が九〇六〇万五二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六三五号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億二九九一万一〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額三九三〇万四九〇〇円を免れ
第三 平成五年六月一日から平成六年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億六九九五万一〇六六円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年八月一日、前記江戸川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億五〇四三万二〇一〇円で、これに対する法人税額が九四四三万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第六三五号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億三九一一万四七〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額四四六七万五八〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(四通)
一 大蔵事務官作成の期首棚卸高調査書、商品仕入高調査書、期末棚卸高調査書、販売手数料調査書、旅費交通費調査書、交際接待費調査書及び領置てん末書
一 小西正良(二通)、原田定幸(二通)及び太田右門の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 検察事務官作成の捜査報告書(東京国税局職員録写しの添附のもの)
一 江戸川税務署長作成の証拠品提出書
一 東京法務局登記官作成の登記簿謄本及び閉鎖登記簿謄本(四通)
判示第二、第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の雑損失調査書
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の雑収入調査書、新規土地等に係る負債利子の損金算入額調査書及び留保金に対する税額調査書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六三五号の1)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の寄附金調査書及び交際費等の損金不算入額調査書及び事業税認定損調査書
一 検察事務官作成の(商品仕入高)捜査報告書
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六三五号の2)
判示第三の事実につき
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第六三五号の3)
(適用法令)
罰条〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号付則二条一項本文により、同法による改正前のものを指す〕
被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項
刑種の選択
被告人につき 懲役刑
併合罪の処理
被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)
被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予
被告人につき 刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、被告会社が自動車専用塗料の販売のほか自動車整備用設備、機械などをイタリア、アメリカ等から輸入し、国内の顧客に販売して利益を得るうち、同輸入代行手続をさせていた山喜商事株式会社の輸入代金支払が外貨建てであったのに同社と被告会社の決算が円建てであり、精算等を必要としたことから同社を通じて、為替の実勢レートに上乗せした代金額を請求させて、その差額分の水増仕入を計上し、その差額代金分を蓄財した事案である。
その犯行動機は、被告人が、為替変動によるリスクに備えての将来の事業資金確保及び家族の老後個人資産蓄財の目的にあるが、三事業年度にわたり過少申告により所得を少なくみせかけ、合計一億一二〇〇万円余の法人税をほ脱し、ほ脱率は、通算約三〇・三パーセントに達している。右脱税額の大きさ、ほ脱率、犯行により得た利得の使途等を勘案すると、被告人らの刑事責任は重大である。
他方、被告人は、今日まで前科前歴なく真面目に稼働して来た市民で、被告会社ほか数社の代表取締役として活躍しているほか、地域社会に尽くすなどの活動も見受けられる社会人であり、本件を反省して、ほ脱した五事業年度の期間の法人税等について修正申告して合計一億六四九九万円余を納付しているなど改悛の情も顕著であると認められる。
当裁判所は、以上のほか、被告人が妻の病気に対して介護すべき立場にあることなどの一切の事情を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑、被告会社・罰金三〇〇〇万円、被告人・懲役一年)
(裁判官 大谷吉史)
別紙1
修正損益計算書
〈省略〉
〈省略〉
別紙2
修正損益計算書
〈省略〉
〈省略〉
別紙3
修正損益計算書
〈省略〉
〈省略〉
別紙4
ほ脱税額計算書
株式会社スピーディ
〈省略〉
株式会社スピーディ
〈省略〉
株式会社スピーディ
〈省略〉